【第1話】人生変えるもう一つの渋谷!


 

 

 

━━━プロローグ。

 

 

 

 

 

この世界には、蜘蛛の巣が無数の張り巡らされている。

 

枯葉の付いた一目で避けやすい蜘蛛の巣。
余程近づかないと存在にすら気付けない蜘蛛の巣。

 

一方で、

この世界には、多種多様な一生を過ごす蝶が存在する。

 

鮮やかな翅で死ぬまで自由を謳歌する蝶。
糸に絡まり捕食される運命を受け入れている蝶。

 

もちろん自然界だけでなく、我々が住む社会にも、タチの悪い蜘蛛の巣や翅の破れた蝶は存在する。

 

「ブラック企業」「パワハラ」「就活失敗」「いじめ」「コミュ障」「鬱」

 

蜘蛛の巣に一生を委ねる蝶もいるが、自らの手で脱出して人生を切り開く蝶もいる。

 

君は一体どちらだろうか。

 

もし君が糸に絡まっている蝶だとしたら、もし君が希望を求める蝶だとしたら、この物語の蝶たちに、蜘蛛の巣を抜け出すヒントを教えて貰えるかも知れない━━━。

 

 

 

 

 

 

 

2019年8月31日(土)

ハロウィン、ワールドカップ、大晦日。
なにかイベントがある度に、日本中から人が集まる街・渋谷。

 

夏の終わりを告げる象徴的な日のスクランブル交差点は、血眼になって”ある探し物”をしている人達で溢れ返っていた。

 

そしてその発端となったのが、このツイート━━━。

 

 

 

 

初めは誰もが詐欺ツイートだと思った。
しかしこのツイート、RTやイイネの伸びが尋常じゃないのだ。

 

 

なんとわずか一日で100万リツイートを記録し、最終日には500万リツイートを超えていた。
普通の詐欺アカウントじゃありえない数字だ。


しかしなぜこんなにも反響があったのか?
それは、このツイートが世に放たれた翌日、実際に100万円が振り込まれた人が、何人も証拠画像付きで喜び溢れるツイートを投稿していた
のだ。

 

ツイートをしていたのは、田舎に住むホルン吹きの女子校生から、ブログが趣味の平凡なサラリーマン。夫の愚痴を吐くだけの主婦。中には売れない芸能人など、完全に無作為な人達だった。

 

彼らのツイートを遡ってみると、このイベントが始まる何年も前から、いわゆる”普通”のツイートをしていたので、彼らがサクラの可能性はかなり低い。

 

故にこの事実から導かれるのは

 

「あれ?この人、本当に100万円配ってね?」

 

このような結論だった。

この過去ツイに裏打ちされた事実は、人生を逆転させたいと願う人々の気持ちを強く駆り立た。
そしてリツイート数はギネス認定されそうな勢いで伸びて行き、多くの人々を渋谷に駆けつけさせた。


そしてかく言う俺も、わざわざ渋谷に駆けつけた人たちの中の1人だった━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

ったく、人が多すぎて、これじゃあ探せるもんも探せんなぁ・・・。

 

渋谷の街は過去一番と言って良いほどの暑さだった。

 

インスタを撮りながら友達と楽しそうに草木を搔きわけるJK。
薔薇探しを口実に声かけを
繰り返すナンパ師。
地面に這いつくばって自販機の下を確認する中年の親父。

 

みんな今の生活を変えたいと、血眼になって“青い薔薇”を探していた。

 

みんな必死だなぁ・・・。

 

1億円という大金を夢見て、のこのこ出て来た俺も、決して人のことを言える立場ではないが、このあまりの盛り上がりっぷりには呆気を取られた。

 

到着から10分もしない内に人混みに酔ってしまい、比較的人通りの少ないセンター街の路地に入った。

酔い冷ましがてら路地脇に座ってファンタをちびちび飲んでいると、目の前を通り過ぎた女性が急に立ち止まり、声を掛けてきた。

 

あれ、もしかしてダイちゃん?

 

ビックリして見上げると、そこには幼馴染のミホが立っていた。

 

お、おう。久しぶり・・・。

 

もしかしてダイちゃんも”青い薔薇探し”?

 

うん、まぁそんなとこかな。

 

 

━━━幼馴染との約10年振りの再会。
もし俺が普通に働いていて、普通の生活を送っていたなら、凄く嬉しい出来事になったに違いない。

しかし、今の俺はただのニート。
出来ればミホとは会いたくなかった。

 

この人混みじゃあ、全然見つかりそうもないよね~。

 

確かにそうだな。

 

そういえばダイちゃんは今なにしてるの?

 

ミホが言う”今”とは、薔薇探しをしている”今”のことではなく、仕事をしている”時”のことを指すのだろう。

 

(これだから、誰にも会いたくなかったんだ・・・。)

 

しかし、何も答えないのは、ある意味答えになってしまうので、頭をフル回転させて答えた。

 

い、今は・・・システムエンジニアとして働いてるよ。

 

自分の中にあるちっぽけなプライドを守るための嘘。
しかし、昔思いを寄せていた幼馴染に”ニートをやってる”なんてとてもじゃないが言えなかった。

 

そんなことを口にしてドン引きでもされてしまったら、ちっぽけなプライドは粉々に打ち砕かれ、一生立ち直れないかもしれない。

 

へぇ~。

ダイちゃんは、IT系の何か凄い仕事をしてるんだね~。

 

仕事なんてしていない。
本当の俺は全然凄くなんかない。

 

嘘をついても心が割れそうだった。

 

(ボロが出る前に退散しよう・・・。)

 

そう思ったその時、

 

私は・・・仕事が上手く行かなくてさ。
辞めちゃおうか・・・け、結構悩んでるんだよねぇ~。

 

声が震えている。
勇気を振り絞って出したかのような、動揺やためらいの混じった言葉だった。

 

え、どうしたん?

 

さっさとこの場から立ち去るつもりだったが、学生時代のこととは言え、昔好きだった子が悩んでるのを放って置くことは、俺には出来なかった。

 

うん・・・いま営業職についてるんだけど、全然契約が取れなくて周りに迷惑を掛けちゃってね。

 

人は一人では生きていけないし、迷惑くらい、誰でも掛けるもんだろ。

 

親におんぶに抱っこ状態の俺がこのセリフを吐くには、かなり心が痛む。

 

そうだよねぇ~。
でもね・・・

 

でも?

 

こ、この前トイレに入ってたら聞いちゃったんだよね。

先輩が私のことを”迷惑”だって言ってるのを・・・。

 

ミホは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

なかなか契約が取れなった期間、先輩たちが私のノルマの分もずっと助けてくれてたの。

 

いい先輩たちじゃん。

 

口に出してから気付いた。
ミホが辞めようと思ったきっかけなったかもしれない先輩たちを褒めるのはどうかと思ったが、会話が苦手な俺は、それ以外の言葉が思いつかなかった。

 

うん。とっても良い先輩たちなんだ。
でも私、少し頼り過ぎちゃったみたいんなんだよね・・・。

 

へ、へぇ・・・。

 

それで反省して毎日残業して、休日返上で働いて、半年前位から大きな契約が取れるようになったの。

 

え、じゃあ辞める必要ないんじゃないの?

 

でも・・・。

 

でも?

 

”誰も”喜んでくれなかったんだよね・・・。

 

・・・え?

 

成果を出すのが遅過ぎて、私、呆れられちゃったみたい。

 

少し困ったように微笑む彼女の顔には、一雫の涙が溢れていた。

 

 

だったらそんな会社辞めちゃえばいいんじゃない?

 

本心では、いつも笑顔のミホが悲しそうにしている姿は似合わないと思った。
しかし、また余計なことを言ってしまったとも思った。

 

うん・・・。それで辞めようか上司にも相談したんだけど、人が足りてないからって絶対にダメだって言われてね。

 

私、なんのために頑張ってるんだろう?ってずっと悩んでたんだ・・・。

 

それは・・・辛い思いをしたんだな。

 

俺がラブコメに出てくるイケメン主人公なら、今すぐミホを抱き寄せてハッピーエンドに連れてくことも可能だったが、あいにく俺はニートで、コミュ障で、ただ相槌することしか出来なかった。

 

でも、今日ダイちゃんと話してスッキリした。もうちょっと頑張ってみるよ!だから・・・。

 

涙をぬぐいながら、ミホがスマホの画面を見せてきた。

 

だから、また相談に乗ってくれないかな?

 

iPhoneに映し出されたラインのQRコード。

 

俺はニートになって以来、自分の生活にうしろめたさを感じていた。
だから誰からも連絡が来ないように、連絡先を家族以外全て削除していた。

 

でも今はそんなうしろめたさよりも、何か大切にすべきものがある気がして、素直に連絡先を交換した。

 

それじゃ、また連絡するね。
ばいば~い。

 

そう言うと、ミホは人混みの中に消えていった。

 

ふぅ・・・。

 

久々に知り合いと喋った疲れで”薔薇探し”のことなどどうでもよくなり、1億円は諦めて帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渋谷から帰って来てからというもの、何も食べる気が起きず、大好きなアニメを見る気力にもならなかった。

ただ力なくベッドに横になり、物思いに耽っていた。

 

バカだなあ・・・俺。

 

プライドを守るために小さな嘘をつき、現状に甘え続ける俺。
辛いことや失敗も素直に話せて、歯を食いしばって頑張るミホ。

 

一体どこでこんなに差が出来ちまったんだろう・・・。

 

人生を振り返ると、そのあまりのダサさに涙が出る。

 

26歳で実家暮らし。
一度も呼ばれたことのない結婚式。
親にせびるお小遣い。

 

その全てが情けなくて、仕方がなかった。

 

神様、もう一度人生をやり直すチャンスをください・・・。

 

心の底から願った。
今はニートだけど、働けるなら誰よりも働くし、結果も出す。

 

だからもう一度。
もう一度だけ俺にチャンスをください・・・。

 

情けない過去と将来の不安に押しつぶされそうになりながら物思いに耽っていると、いつの間にか意識が遠のいていった━━━。

 

 

 

 

 

 

 

深い深い闇の中。
冷たくて寒い、ただひたすらの闇の中に俺はいた。

 

もしかして俺は・・・死んじまったのか?

 

身体は肌寒さを感じているのに、全身からじっとりとした汗が吹き出る。

 

誰か!!誰かいたら返事をしてくれ!!!

 

誰からも返事はない。
しかしどこからか足音が近づいて来る。

ハッと思い出したようにスマホをポケットから取り出すが、電波は圏外だった。

 

クソッ!!

 

 

足音が自分の背後僅か数メートル先で止まった。

震える指先で懐中電灯アプリを見つけ出す。
後ろを振り返り、思い切ってライトをかざす。

 

すると、手を伸ばせば届きそうな距離から、自分と同じ顔の人間が青ざめた表情で、こちらをジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

一瞬腰を抜かしそうになったが、なんとか持ち堪え、一目散にその場から逃げ出した。

 

な、なんだありゃ!ドッペルゲンガーか!?

 

恐怖で足がもつれ、盛大に転ぶ。

 

もう勘弁してくれよ・・・。

 

夢とは思えないほどの痛み。
膝小僧に激痛が走る。

これは本当に夢なのか?夢ならもう覚めてくれと願う。

 

すると今度は猫の鳴き声がした。

 

ライトを照らすと、サファイアのような深い青色の目をした黒猫がこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

こちらに向かって首で合図のようなものをしてくる猫。

 

な、なんだよ。

俺について来いってか?

 

暗闇の中、特に、行く宛てがある訳でも無かったので、この怪しい猫について行くことにした。

 

 

 

 

 

 

━━━どれほど歩いただろう。
運動不足のお陰か、たった数十分歩いただけで、全身びっしょりと汗をかいていた。

 

(おいおい、一体いつまで歩かせるんだ?)

 

 

そう心の中で愚痴っていると猫が歩みを止めた。
そして、猫の目の前に何かが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然現れたのは、自分の背丈のほどの扉。
猫はなんの躊躇もなく、扉の奥から漏れる眩い光の方へ消えて行った。

 

お、おい!ちょっ待てよ!

 

扉の向こうへ行くのは正直怖い。

 

何があるのかも全く想像が出来ない。
もしかしたらあの猫に騙されてるかも知れない。

 

・・・でも行くしかない。
何も持って無い俺には、進むしか選択肢は無いんだ!!

 

疲れと恐怖で震える足をパンと叩き、扉の向こうの世界へ歩みを進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を抜けた先の景色は、紛れもなく渋谷だった。
振り返ると、渋谷駅前のシンボルとして有名な緑色の電車がある。

 

あれ、さっきの扉は?

 

先ほど通った扉の場所には、なぜか電車の乗車口があった。
しかし、中を覗いてみても、何の変哲も無い電車内の景色が広がっていた。

 

外に出て周りを見渡す。
いつも通りたくさん人がいる。

 

戻ってこれたんだ・・・!!

 

思わず嬉しくなって話しかけてみる。

 

あ、あの!!

 

近寄ってみると、違和感に気づいた。

 

 

━━━誰も、動いていない。

 

 

あまりに現実離れした状況に絶望した。

しかもよく見ると、これは人ではなく、ハリボテだ。
透明なガラスのような素材に、精巧に描かれた絵だった。

 

そして周りを見渡すと、人や車、ビルまでもが奥行きの無いただのハリボテだった。

 

あの時と同じだ、、、。

 

────周りに人がいるのに孤独。

会社員時代にも似た感情を味わっていたことを思い出した。

 

 

同じ配属先となった同期と先輩達との飲み会。
楽しそうに笑いあっている同期と先輩。

 

普通の会話であるはずなのに、なぜか萎縮して話せない。
ただ愛想笑いを浮かべながら、相槌を打つことしか出来ない。

一体死ぬまでに、この無駄で苦しい孤独な時間を、何回過ごさなければならないのだろう━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと我に帰ると、黒猫がスニーカーの紐と戯れていた。
昔を思い出して少し寂しい気持ちになり、猫を撫でてやった。

しばらくはコイツと過ごそう━━━。

 

 

昼間、人混みでごった返してたセンター街からも、音が完全に無くなっていた。
車の音も、JKの笑い声も、スピーカーから流れるBGMも、何も聞こえない。

 

ただ人の形をしたガラス板を避けながら黒猫に着いて行くと、裏路地に一軒、明かりの点いている古本屋を見つけた。

 

 

なんでここだけ灯がついてるんだ・・・?

 

渋谷の街にひっそりと佇む、少し古びたヨーロピアン調のお店。
どこか見覚えがあるが、なかなか思い出せない。

 

黒猫は開いていたドアの隙間から、スルリと店内に入って行った。

 

お、おい!
ちょっ待てよ!

 

俺も置いて行かれまいと、迷う暇なく急いで店の中に入った。

 

 

ご、ごめんくださ〜い。

 

少し埃っぽい店内には、見たことも内容な古い書物がびっしり並んでいて、独特の空気が流れていた。

 

つか、渋谷にこんな店あったかなぁ?

 

所狭しと並ぶ古本を眺めながら猫について行くと、奥に半開きのドアを見つけた。
黒猫はまたしてもドアの隙間から中へ入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先に一体何があると言うのだろうか?
心臓がうっかり破裂しそうなほど、鼓動が早くなって行く。

 

 

ふぅ・・・。

 

深く深呼吸し、ドアを軽くノックする。

 

ごめんくださーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

何も応答がない。

 

恐る恐るドアを開けると、そこには暗闇が広がっていた。

 

なんだここは・・・?

 

恐る恐る中に入ると、突然部屋の電気が付いた。

 

 

 

「青い薔薇は見つかったかい?」

 

 

 

中央に置いてある椅子に、深く腰掛ける怪しげな仮面の男がそう呟いた。

 

ガイフォークスの仮面に黒のニット帽。
黒のタートルネックを着た彼は、こちらを真っ直ぐ見つめている。

 

(い、一体なんなんだこいつ・・・。)

 

恐怖で何も言えずに硬直していると、彼は心を見透かしたかのように楽しげに答えた。

 

俺かい?

俺は・・・君の味方さ。

 

すると何かの引力に引き寄せれ、彼の目の前にあるもう一つの椅子に座らせられた。

机を挟んで仮面男と向き合う。
今までに味わったことのない圧迫感だ。

 

(い、息が詰まりそうだ!!)

 

仮面の男は、こちらの目をじっくり見て来る。
何か怪しげな力が働いて、目が背けられない。

 

あなたは一体・・・。

 

この世界がなんなのかも聞きたかったが、とりあえずは目の前にいるこの男が何なのか気になってしょうがなかった。

 

俺の名はレオナル

言うなれば君の・・・師匠ってとこかな?

 

レオナルと名乗る男は、足を組み直しながら答えた。

 

えっ・・・、師匠ってどういうことですか?

ってかいうか、ここは一体なんなんですか!?

 

この世界に迷い込んでから、初めて会った人間に矢継ぎ早に質問していく。

 

ここは・・・。

 

レオナルが口を開いた。

 

いや、とりあえず酒を飲もうではないか!

 

そう仮面の男が叫ぶと、棚にあったボトルを開け、グラスに赤い液体を注いだ

 

 

え・・・?

 

急過ぎる展開に思考が追いつかず、呆然とする。
しかし、レオナルは上機嫌で鼻歌を歌っている。

 

・・・それでは二人の出会いを祝して、乾杯!!

 

明らかに怪しい男から送られる、明らかに怪しい飲み物。

しかし、下手に機嫌を損ねたら命に関わる気がして、酒を煽るという選択肢を選んだ他なかった。

 

(もう・・・どうにでもなれ!)

 

頂きます!

 

 

 

 

 

勢い余って結構な量を摂取してしまった。
最初はあまりの緊張で味なんか全く分かんなかったが、数秒遅れて味が脳に届いた。

 

・・・お、美味しい。

 

今まで味わったことの無いような不思議な味だった。

味・・・というより脳に幸せが広がる。
そのあまりの気持ち良さに、貰ったグラスを一気に飲み干してしまった。

 

 

あのう・・・
申し訳無いんですけど、このブドウジュースのおかわり貰えますか?

 

緊張して喉が可愛ちゃって・・・。

 

 

お、いい飲みっぷりだねぇ!

 

とにかく喉を潤し、緊張を解したかった俺は、次々とこの謎の液体のおかわりを貰った。

 

しかし、5分ほど経つと身体に異変が起こった。

 

涙が止まらないのだ。

 

 

いい忘れていたが、その液体は「感情の振れ幅を大きくするワイン」なんだ。

日常で隠し持ってる感情を曝け出させる作用がある。

 

・・・え?

 

効能を聞いたからなのか、本当にこのワインの作用なのか全く分からないが、次第に身体が熱くなってきた。

 

ところで君はこの先、どうなりたいんだ?

 

シンプルな質問だ。
普段なら嘘を付いたりはぐらかしてしまうのだが、今はそんな感情が一切浮かばなかった。

 

俺・・・今までニートやってたんです。

 

新卒で入社した会社の雰囲気が合わなくて半年で辞めて、一年間意味もなく実家でフラフラしてました。

 

 

気付くと、俺は、泣きながら仮面の男に、誰にも言えないような恥ずかしい過去を全て話していた。

 

それで?

 

一応転職活動をしたんですけど、全然上手く行かなくて、自信を無くしちゃって・・・。

 

ほう。

 

周りは一人暮らしをしたり、恋人と同棲したりしてるのに、自分はまだ実家で親のスネをかじってて・・・。

 

ほう。

 

最低限のバイトだけして、全然稼げてない自分と周りを比較して、引け目を感じて・・・友達とも距離を置くようになりました。

 

そうか。
辛い人生を送ってきたのだな。

 

はい・・・。

でも全部俺が悪いんです。

勉強からも仕事からも逃げ続けた結果だから、俺が、俺が全部悪いんです!!

 

 

涙が止まらなかった。
こんなに人に包み隠さずコンプレックスを吐き出すなんて、初めてだった。

 

じゃあ、ダイスケはどうしたいんだ?

 

 

・・・変わりたいんです!

昔の友達とも引け目無く遊びたいし、普通の生活が送りたいんです!

 

もっと欲を言えば・・・

人生を逆転したいんです!!!

 

思わず叫んでいた。
こんなに大声を出したのは、いつぶりだろう。

 

じゃあダイスケは、人生を逆転させたいんだな?

 

はい!

 

顔をぐちゃぐちゃにしながら返事をする姿は、俺の人生史上一番恥ずかしい姿かも知れない。

 

・・・よし、その心意気を買ったぞ。

死ぬ気で俺に付いてこい!

 

レオナルが手を差し出てきたので、自分も同じように手を差し出して、互いに強い握手を交わした。

 

今日始めて会った男に全てを預けるなんて、凄く馬鹿馬鹿しいかも知れない。

 

でも、なぜかこの人には付いて行きたいと思えた。
なぜかって?それは・・・

 

俺のコンプレックスを全て受け止めてくれたからだ。

 

理由は単純でも、俺にとっては凄く大きかった。

 

人に言ったら笑われる、バカにされると思っていたことを、笑わずに受け止めてくれる人がこの世界にいる。

 

それを知れただけでも、俺の心は救われた。
だから俺は、この仮面男と一緒に頑張りたい。

 

この先どんなに辛いことがあろうとも、それを乗り越えて、強い男になりたい。

 

そして人生を逆転させたい。

 

だから次のチャンスは必ず掴もう。
いつかこの手で━━━。

 

 

次回、人生逆転プロジェクト第2話。
「ネガティブ思考をぶっ壊す!」

 

人生逆転プロジェクト COMIP